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コラム

欧州電池規則とは?背景や適用時期を分かりやすく解説

目次

はじめに

2023年7月、欧州理事会で採択された「欧州電池規則(EUバッテリー規則とも呼ばれる)」は、バッテリーの製造から廃棄までのライフサイクルの全プロセスを包括的に規制する新しいルールです。この規則は持続可能性の確保を目指すもので、製品のライフサイクル全体を対象とし、製造~廃棄時(使用時は除く)の温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント:CFP)の表示義務や、資源採掘・精錬工程における責任ある材料調達(デューディリジェンス:DD)、またリサイクルに関する規制等も含まれ、要件を満たしていないと欧州市場で車両を上市できなくなることから、蓄電池サプライチェーンの企業は対応が求められます。電動車の車載用バッテリーからCFPの開示が必要(2025年2月18日~)となり*1、対象はBEVだけでなく、HEV・PHEV・FCEVも対象となります。

*1:その後産業用バッテリー、携帯型などEU域内で販売される全てのバッテリーが対象となる見通し

この記事では、欧州電池規則の概要や企業に求められる対応について解説します。

1.欧州電池規則成立の背景

 欧州電池規則は、地球環境問題や資源枯渇への懸念に対応するために制定されました。電池需要の増加に伴い、廃棄物処理や原材料採掘による環境負荷が深刻化しており、サプライチェーン全体での透明性確保が急務となっています。この規則は、電池産業における持続可能性向上を目指し、原材料の調達から廃棄まで、電池のライフサイクル全般にわたって規制を設けています。

2.従来の電池指令との違いとは?

 従来のバッテリー指令(2006/66/EC)は、その適用範囲や規制内容が十分でないと指摘されていました。一方で、電池需要が急速に拡大しつつある現在、電池産業を包括的に規制する新たな枠組みが必要となりました。この規則化への移行は、従来の電池指令よりも具体的な目標を掲げ、電池全般にわたる厳格な基準を設定したことを意味しています。例として、製造段階でのカーボンフットプリント(CFP)の算定義務や、原材料調達におけるデューデリジェンス(DD)の実施が挙げられ、欧州における持続可能な経済を支える基盤と位置付けられます。

3.規則の主なポイント

  • カーボンフットプリント(CFP)の開示義務 
    2025年2月18日以降、電動車(BEV、HEV、PHEV、FCEV)に搭載されるバッテリーにCFP開示が義務付けられます。製品環境フットプリントカテゴリールール(PEFCR)に基づき、ライフサイクル全体でのCO2排出量を算出する必要があります。

  • 責任ある材料調達
    コバルト、ニッケル、リチウム、天然黒鉛といった材料の採掘や精錬がデュー・ディリジェンス(DD)の対象です。
    労働者の権利や環境影響を第三者検証を通じて評価しなければなりません。

  • デジタル化とバッテリーパスポート 
    バッテリーにはQRコードを付与し、製造場所や寿命などの情報を電子記録として登録します。

  • リサイクル材料の使用促進
    コバルト、鉛、リチウム、ニッケルのリサイクル材料使用率の最低目標が設定されます。

4.欧州電池規則の対象企業と適用開始時期

対象企業

欧州電池規則は、EU域内で販売されるすべてのバッテリーを対象としており、形状、体積、重量、設計、材料組成、化学組成、用途、目的を問わず、以下のカテゴリが含まれます。

バッテリーの種類

説明

ポータブルバッテリー

携帯電話、ノートパソコン、電動工具などに使用

始動用、照明用、点火用バッテリー
(SLIバッテリー)

自動車やオートバイなどのエンジン始動に使用

軽輸送手段用バッテリー
(LMTバッテリー)

電動自転車、電動スクーター、電動バイクなどに使用

電気自動車用バッテリー

電気自動車やプラグインハイブリッド車に使用

産業用バッテリー

フォークリフト、電動車椅子、蓄電システムなどに使用

製品に組み込まれる、
または製品に追加されるように
設計されたバッテリー

おもちゃ、家電製品、医療機器などに組み込み使用
 この規則は、バッテリーの製造、使用、リサイクルに至る各段階での環境負荷低減を目的としており、特にEV産業や自動車産業に関連が深いとされています。

適用開始時期

適用開始時期については、2023年8月17日に規則が施行され、各義務は2024年から順次適用されます。

  • 2024年2月18日:一部の義務の適用開始。

  • 2024年8月18日:産業用バッテリーと電気自動車用バッテリーに対するカーボンフットプリントの申告が義務付けられます。

  • 2025年2月18日:電気自動車(EV)用バッテリーのカーボンフットプリントの申告義務が適用されます。

  • 2028年8月18日:リサイクル済み原材料の使用割合の開示義務が、容量2kWhを超える充電式産業用バッテリー(外部貯蔵のみのものを除く)、電気自動車用バッテリー、SLIバッテリーに対して義務付けられる予定です。

5.企業への影響と対応策

この規則は欧州市場でバッテリーを使用する製品を販売するすべての企業に影響を与えます。規制を遵守しない場合、欧州市場での販売が制限される可能性があります。従来の電池指令に比べて適用範囲が拡大されており、自動車用バッテリーや産業用バッテリーに加えて、製品に組み込まれた電池も規制の対象となっています。さらに、2024年2月からはCEマーキングの適用も開始される予定であり、関連製品の製造過程の見直しが必要となります。自動車や電子機器の輸出を行う日本企業にとって、抜本的な対応を求められる状況となっています。

特に重要なのは以下のポイントです。

CFP開示対応

電池の製造から廃棄までのライフサイクル全体での環境負荷低減を目的としており、特に自動車メーカーや部品産業においては、カーボンフットプリント(CFP)の算定と報告が義務付けられます。さらに、バッテリーパスポートの登録制度やリサイクル材含有量の基準を満たすことなど責任ある原材料調達方針(DD)の導入も求められています。これらの要件に対応しない場合、欧州市場での競争力低下や輸出停止のリスクが懸念されます。

サプライチェーン全体での材料調達の透明性確保

規則では、原材料調達から製造、流通、廃棄に至るまでの情報公開が求められ、人権・環境デューデリジェンス(DD)の徹底が必要とされています。日本企業は、サプライチェーン全体での適切なデータ管理と具体的な対応方針の策定が求められます。特に、鉱物資源の調達やリサイクル材の使用において、紛争鉱物や環境破壊を伴わない調達の実現が重要であり、取引先やパートナー企業との緊密な協力体制が不可欠です。

まとめ

欧州電池規則は、サステナビリティへの取り組みを促進する一方で、企業にとって新たな挑戦も伴います。しかし、規制を遵守し、持続可能な経営を実現することで、競争力を高める機会となるでしょう。



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〈出典元〉
欧州連合 REGULATION (EU) 2023/1542 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 12 July 2023 concerning batteries and waste batteries, amending Directive 2008/98/EC and Regulation (EU) 2019/1020 and repealing Directive 2006/66/EC

日本貿易振興機構 EUバッテリー規則とドイツを中心としたバッテリー生産・リサイクルの動き