細則公表が待たれる欧州電池規則。対応が求められる人権デューディリジェンスとは?
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欧州電池規則と人権デューディリジェンスの重要性
欧州電池規則(EUバッテリー規則とも呼ばれる)は、気候変動対策の一環として、電池の製造・流通過程における環境保護と人権尊重を義務付ける新しい枠組みです。この規則は、サプライチェーン全体での持続可能な経営を推進し、企業に対して人権侵害のリスクを適切に管理することを強く求めています。人権デューディリジェンスの導入は、企業にとってコンプライアンス遵守の基本に留まらず、グローバル市場での競争力向上の鍵ともなります。
規則の影響を受ける対象事業者は、電気自動車用バッテリーから携帯型バッテリーに至るまで、さまざまな業種が含まれ、これに伴い企業のリスク管理能力の向上が求められるのです。
人権デューディリジェンスとは?
企業は、人権への影響を特定し、予防や軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応のモニタリング、対処方法に関する情報発信を行うことを求められています。 この一連のプロセスのことを「人権デューディリジェンス(人権DD)」と呼んでいます。企業活動が労働者や地域社会に与える負の影響を防止し、必要な是正措置を講じることで、以下の課題に対応します。
- 強制労働・児童労働の排除
例えば、リチウムやコバルトの採掘現場では、未成年の労働者が危険な労働環境にさらされているケースが報告されています。これらの問題への対策を講じることは企業に期待される責任です。 - 差別の排除
企業は性別・人種・宗教に基づく差別のない職場環境を提供しなければなりません。 - 結社の自由・団体交渉権の尊重
労働者が組合を結成し、適切な労働条件の交渉を行う権利を尊重し、これらの権利を侵害されないようにする必要があります。
これらの課題に取り組むことは、単に規制遵守のためでなく、企業のブランド価値を向上させ、サプライチェーンの透明性が競争優位性をもたらすことで、結果的に投資家や消費者からの信頼を高める要因にもなるのです。
欧州電池規則における人権リスク管理
欧州電池規則が義務付ける人権リスク管理は、単なる表面的な対応ではなく、サプライチェーン全体を通じた継続的な改善が求められています。
- 原材料の調達段階におけるリスクの特定と評価
リチウムやコバルト、ニッケルなどの重要鉱物資源は、多くの場合、労働者の権利侵害や環境破壊のリスクが指摘される地域から調達されています。企業は、サプライチェーン全体にわたるリスク評価を実施し、調達元の監査を強化することで、責任ある取引を行う必要があります。 - 情報開示と透明性の確保
企業は、人権および環境リスクへの対応について、消費者や投資家に対して透明性を持って情報を開示する必要があります。この開示には、第三者機関による独立した検証が含まれる場合もあり、信頼性を確保するためには、サプライチェーン管理システムや統一的な監査基準を採用することが求められます。
対象事業者への適用範囲
欧州電池規則は、EU域内で流通するすべての電池(携帯型/EV/産業用など)を扱う事業者が対象となります。規模基準(4,000万ユーロ)は2025年8月時点での適用除外ラインであり、2027年以降は全事業者に段階的に拡大されます。また、製造規模や製品タイプにかかわらず、リチウムイオン電池やニッケルカドミウム電池など、すべての電池の製造プロセスが対象となります。
これには、原材料の調達から製造、リサイクルに至る全ライフサイクル段階が含まれます。
なぜ人権デューディリジェンスが必要なのか?
人権デューディリジェンス(人権DD)は、単なるリスク管理の手段にとどまらず、企業にとって持続可能な成長戦略の一環です。人権侵害が放置されると、以下のような深刻なリスクが発生します。
法的リスク
労働者やNGO団体からの訴訟に発展する可能性があります。特に、EUのCSRD(企業サステナビリティ報告指令)やドイツのサプライチェーンデューディリジェンス法などの法的枠組みが強化される中、訴訟や罰則による法的対応コストが企業経営を圧迫するリスクが高まっています。ブランドイメージの毀損
消費者が社会的責任に敏感になっている現代では、人権侵害の報道は企業のブランド力に直接打撃を与えます。また、ESG投資の拡大により、社会的責任を果たさない企業は投資家からの支持を失う可能性もあります。特にグローバル企業では、こうしたリスクへの迅速な対応が求められています。従業員の士気低下
不適切な労働環境は従業員のモチベーションを著しく低下させ、人材の流出を招くだけでなく、企業文化全体に悪影響を与える可能性があります。これにより、組織の競争力やイノベーション能力が長期的に損なわれる恐れがあります。
具体的な取り組み方
企業が効果的な人権デューディリジェンス(人権DD)を実施するためには、具体的なフレームワークを策定することが必要です。
人権保護に関する方針策定
企業全体で人権保護を優先事項として位置付け、経営者がリーダーシップを取って方針を策定します。全ての部門でこの方針が徹底されるよう、定期的なトレーニングや啓発活動が必要です。リスク評価と監査体制の強化
サプライチェーン全体で人権リスクを特定し、評価するための基準を設け、定期的なリスクアセスメントと監査を実施します。リスクが高い地域やサプライヤーに対しては、特別な調査や監視を行い、改善計画を策定します。是正措置とフォローアップ
人権侵害が発覚した場合には、速やかに是正措置を講じ、問題の根本原因を特定して再発防止策を実施します。改善の進捗状況を定期的に監視し、必要に応じて追加の対応を行います。利害関係者の関与
サプライヤーや労働者、NGO、地域社会など、全ての利害関係者との協力関係を築き、フィードバックを得ながら人権リスク管理を進めます。特に、労働者の声を反映させるための仕組みを整えることが重要です。
まとめ
欧州電池規則がもたらす影響は、単なる規制対応にとどまらず、企業が未来に向けてどのように持続可能な事業運営を構築するかを問うものです。特に、労働者の人権を尊重する取り組みは、社会からの信頼を獲得する上で重要な役割を果たします。
企業は、電池製造における環境・人権両面での持続可能性を確保することで、責任あるグローバル企業として成長し続けることができるのです。
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Zeroboard for batteriesについて
〈出典元〉
Democratic Republic of Congo: “This is what we die for”: Human rights abuses in the Democratic Republic of the Congo power the global trade in cobalt
https://www.amnesty.org/en/documents/afr62/3183/2016/en/
Amnesty International & Transport & Environment
The EU Battery Regulation Due Diligence Rules
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