CFPを巡る動向について①
ゼロボード総研 シニアフェロー 磯部 真弓
はじめに
LCA(Life Cycle Assessment)、特にその中でも製品の気候変動影響を示すCFP(Carbon Footprint of Products)をめぐってさまざまな動きがみられる。欧州を中心とした製品のGHG排出量を提出するような規制の動きは注目されているところもあるが、それ以外のところでも進められている。
欧州を中心とした動き
欧州の中で注目されている規制としては欧州電池規則*1と炭素国境調整メカニズム*2(Carbon Boader Adjustment Mechanism)の2種類である。
欧州電池規則では、2025年2月※には蓄電池の性能要件の取りまとめとCFP算定が必要になり、現在、データ収集のための準備等がなされている(※但し、現在は細則発行の遅れ等から2025年秋以降の適用が有力とされている)。この規則は、モビリティ分野およびエネルギー分野に対して多大な影響を及ぼすすべての蓄電池が、安全かつ循環型かつ持続可能なバリューチェーンで製造されることを目指している。そして、CFP算定においては、環境フットプリントの流れを基に、サーキュラーエコノミーの考え方も評価できるよう検討されている。
また、炭素国境調整メカニズム*2では、日本国内において、現時点での対象製品であり、日本からの輸出が多い鉄鋼製品、アルミ製品において動きが見られる。すでに移行期間(2023~2025年)に入っており、2024年10月以降求められる実際のデータ収集の準備等がなされている。これは、欧州排出量取引制度(EU ETS)における無償割当の削減に伴い、製造工場が海外へ流出すること(炭素リーケージ)を防ぐ方策であり、欧州域外から流入する製品に対して欧州域内と同様の炭素コストを負担することで公平な競争を促すものである。一方で、この算定についてはCFPというよりも工場でのGHG排出量を按分して求めており、従来のISO14040/44で言われている内容とは異なる。
いずれにしても、欧州では環境を軸としてルールを変えながら産業を発展させ、欧州域内では低炭素製品が求められるグリーンな経済社会へと向かっている。
中国の動き
欧州以外で、最も印象深いのは、中国国内での自動車のカーボンフットプリント開示情報になる(下図参照)。これは、中国生態環境部(Ministry of Ecology and Environment of the People’s Republic of China)が進めてきた。この自動車CFP算定方法は、関係する産業界を巻き込み、多くのデータを収集、試算して決められてきた。さらに、そのデータ収集・開示のプラットフォームとして、二酸化炭素排出量情報開示プラットフォーム(Carbon Publicity Platform)*3が確立され、今後は自動車各社および関係会社がこのプラットフォームを通じてCFPの情報を公開していく。そして、英国規格協会(BSI)と協定*4を結び、欧州域でも信頼できるデータベースになるように推進することを表明している。
さらに、中国では、気候変動への取組に対して2030年二酸化炭素排出量ピークアウト、2060年カーボンニュートラル達成を目標*5に掲げており、中国国内の自動車サプライチェーンにおける二酸化炭素排出量削減の意識を強め、国際的にも信用されるような情報開示を目指すという。
日本における動き
日本においては、活発な動きが見られるのは建設分野で、建築物のCFPを算定しようとする動きがある。日本の二酸化炭素排出量の多くを占める業務部門、家庭部門からの排出量に大きく寄与する建物からのGHG排出量を削減することを目的に、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律が改正*6された。それと併せて、東京都は、建設時にエコマテリアルを使用することを推奨している*7。これらの動きに合わせて、日本建築学会やゼロカーボンビル(LCCO2 ネットゼロ)推進会議において、データベース、算定ツール(J-CAT)*8などが更新・作成され、試行版が公開された。そのツールでは、個別の建築資材のEPD(Environmental Product Declaration)が活用できるようになっている。
脱炭素製品にむけて
上記に記載したように、他国において強力な牽引力で製品からのGHG排出量を算定する取組がみられ、その影響として取引先の欧州企業から要望され自分たちの製品のGHG排出量を算定したいといった個別の動きもみられる。
過去においてもCFP算定結果を納入先へ提出することはあった。とはいえ、算定した結果を公開したり、他社類似製品と比較することはほとんどなかった。LCA/CFPはある前提をおいて算定した結果であり、絶対的な値ではない。他社の算定結果と比較するようなことが想定されれば、関係者と協議することが常であった。一方で、経済産業省『カーボンフットプリント ガイドライン』にあるように、個社独自でCFPの数値を提示することも認められてきている。その数値を見る側の課題であるかもしれないが、より小さな数値を追い求めることがあっては本末転倒になる。また、さらに上流の取引先に闇雲にデータ提供を求めることも負担を増やすことになる。CFPも性能、デザイン、価格など1つの品質因子であるが、実務を担ってきた人間としてCFPは他と比較して精度良く算定できていない現実も知ってほしい。
脱炭素製品に向けての取組を急ぐことは重要であるが、性急すぎる数値公表で、むしろ一時的な動きになることは避けたい。これからは、CFP・LCAなどの算定結果を出すことと合わせて、今後、どのように減らしていくのか、そして実態は減っているのかといった視点で、長期的な指標の数値として判断できる数字となるよう、例えば、基準年値と削減目標値に対して現時点がどのレベルにあるのかを示し、詳細は別に示すなど、コミュニケーションの方法を考えていく必要がある。
<参照元>
*1)https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/batteries_en#overview
*2)https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism_en
*3)http://en.auto-cpp.com/
*4)http://en.auto-cpp.com/News/Read/4
*5)https://unfccc.int/sites/default/files/NDC/2022-06/中国落实国家自主贡献成效和新目标新举措.pdf
*6)改正建築物省エネ法 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=354AC0000000049
*7)https://www.kankyo1.metro.tokyo.lg.jp/dbook/202210/master_plan/2022-10_tokyo_kankyo/index.html#page=73
*8)国土交通省プレスリリース 建築物のライフサイクルカーボン算定ツール試行版を公開しました(J-CAT)https://www.mlit.go.jp/report/press/house04_hh_001226.html