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2023.10.17

コラム

欧州電池規則がもたらすインパクト①

2025年2月18日

 EUでは2023年8月17日、バッテリー製品の原材料調達から設計・生産プロセス、再利用、リサイクルに至るライフサイクル全体を規定する「欧州電池規則」が施行された。多くの企業がその対応に頭を悩ませるカーボンフットプリント(以下CFP)のスタートは2025年2月18日、2023年10月2日現在でまだ約1年半の猶予があるが、政府や自動車業界関係者と議論させていただくと「残された時間は多くない」といった声が多く聞かれる。欧州電池規則は、自動車用、産業用、携帯型などEU域内で販売される全てのバッテリーが対象であるが、本稿では、自動車業界での対応に焦点をあて、議論を展開していきたい。

欧州電動車販売動向

 欧州電池規則では、「EU域内で生産されたか輸入されたかにかかわらず、域内で上市または使用されるすべての種類の電池に適用される(原文*1:This Regulation should apply to all categories of batteries placed on the market or put into service within theUnion, regardless of whether they were produced in the Union or imported. )」とあるため、まずはEU(マルタを除く26ヶ国)での電動車販売動向をおさらいしてみたい。2022年の実績でみると乗用車の新車登録台数は、925万7,208台(欧州自動車工業会 ACEA調べ*2)。総数としては半導体不足等により直近30年で最低だが、2つの象徴的な事象がみてとれる。

 1つ目は、バッテリー式電気自動車(BEV)の躍進。台数は112万3,778台(前年比+28%)であり、年間としてはじめて100万台を超え、総数内構成比も10%を超えた。最も多い国はドイツで約47万台(前年比+32%)、次いでフランス約20万台、スウェーデン約10万台と続く。参考までにEU域外であるが、英国は約27万台(前年比+40%)、ノルウェーは約14万台。ノルウェーの新車販売に占めるBEV比率は79%にものぼる。ちなみに日本は約5.9万台(内軽自動車が2.7万台)だが、乗用車全体に占める割合は1.7%にすぎない*3

【図表1】2022年EUでの国別BEV販売ランキング

順位国名台数(台)前年比(%)総数内構成比(%)
1位ドイツ471,394+32.317.8
2位フランス203,122+25.313.3
3位スウェーデン95,035+65.433.0
4位オランダ73,394+15.123.5
5位イタリア49,179▲26.93.7
EU合計1,123,778+28.012.1

出所:欧州自動車工業会(ACEA)

  2つ目は、ピュア内燃機関車の大幅な減少。ガソリン車とディーゼル車の合計は約490万台であり、依然として総数内構成は5割以上を占めるものの、前年比はガソリン車▲13%、ディーゼル車▲20%であった。他の電動車もみると、ハイブリッド式電気自動車(HEV)は約209万台(前年比+9%)、プライグインハイブリッド車(PHEV)は約87万台(+1%)の状況であり、BEV・HEV・PHEVの合計がはじめて4割を超えている。欧州電池規則目線でみると、この3つとFCEVが対象となる。

【図表2】EU26ヶ国(マルタ除く)2018-2022年の乗用車販売におけるパワートレイン別割合

出所:JETRO*4

欧州電池規則の内容

 本題に戻り、BEV・HEV・PHEV・FCEVが対象となる欧州電池規則の全体像を確認していきたい。欧州電池規則の117ページの原文は、全14章から成り96条の条文ならびに15の附属書で構成されている。https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32023R1542

 まず、この規則の目的は何か?という点を読み解くと、第2条に「本規則の目的は、電池が環境に及ぼす与悪影響を防止・低減しつつ、域内市場での効率的な普及に貢献すること、また、廃棄電池の発生と管理による悪影響を防止・低減することにより、環境と人間の健康を保護すること。原文*1:The objectives of this Regulation are to contribute to the efficient functioning of the internal market, while preventing and reducing the adverse impacts of batteries on the environment, and to protect the environment and human health by preventing and reducing the adverse impacts of the generation and management of waste batteries.」とある。このhumanitarianismにあふれる文章の裏には、欧州Green Deal*5で示された、環境と経済の両立により欧州の産業競争力を高め、今後のカーボンニュートラル達成に向けた戦略アイテムである蓄電池において、覇権を握らんとする欧州の思惑もみてとれる。重要なのは、この規則がEUの規則では初となる製品のライフサイクル(資源採取から生産、廃棄、リユース・リサイクルまで)全体を対象とする点だ。製造・廃棄時の温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント)の表示義務や、資源採掘・精錬工程における責任ある材料調達(デュー・ディリジェンス)、またリサイクルに関する規制等も織り込むことで、電池の欧州域内⽣産・域内循環を誘導していくねらいがあると考えられる。

*5 EUとして2050年に、温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「気候中立」を達成するという目標を掲げ、2030年に向けたEU気候目標の引き上げやそれに伴う関連規制の見直しなど行動計画を取りまとめたもの。環境政策であると同時に、エネルギー、産業、運輸、生物多様性、農業など、広範な政策分野を対象とし、欧州経済社会の構造転換を図る包括的な新経済成長戦略となっている。

【図表3】各フェーズにおける欧州電池規則の要件

各フェーズにおける欧州電池規則の要件

出所:欧州電池規則を基にゼロボード作成

 また、こうした動きも奏功してか、既に多くの電池メーカーが欧州域内へのバッテリー工場建設を実行・計画している。

【図表4】電池メーカーのバッテリー工場建設計画

出所:OROVEL*5

 中身の確認に進みたい。欧州電池規則の各章のタイトルを抜粋すると以下の通りである。

CHAPTER

  1. General provisions 総則
  2. Sustainability and safety requirements 持続可能性と安全性の要件
  3. Labelling, marking and information requirements ラベリング、マーキングと情報要件
  4. Conformity of batteries バッテリーの適合性
  5. Notification of conformity assessment bodies 適合性評価機関の届出
  6. Obligations of economic operators other than the obligations in Chapters VII and VIII 第7章・第8章の義務以外の経済事業者の義務
  7. Obligations of economic operators as regards battery due diligence policies バッテリーデューディリジェンス方針に関する経済事業者の義務
  8. Management of waste batteries 廃棄バッテリーの管理
  9. Digital battery passport デジタルバッテリーパスポート
  10. Union market surveillance and Union safeguard procedures EUの市場監視とセーフガード手続き
  11. Green public procurement and procedure for amending restrictions on substancesグリーン公共調達と物質規制変更手続き
  12. Delegated powers and committee procedure 権限委譲と委員会手続き
  13. Amendments 修正
  14. Final provisions 最終規定

欧州電池規則で求められるカーボンフットプリント

 紙面の関係で全てを取り上げることが難しいが、今回は自動車業界関係者の方々との議論で特に話題となるカーボンフットプリントについて取り上げていきたい。該当箇所は、第1章の第7条「Carbon footprint of electric vehicle batteries, rechargeable industrial batteries and LMT batteries」。及び附属書の2「ANNEX II  CARBON FOOTPRINT」等である。

 ポイントを列挙すると以下の通り

  • スタートは2025年2月18日から
  • CFPの算定は製品環境フットプリントカテゴリールール(PEFCR)に準拠する
  • 各ライフサイクル(原材料、製造、流通、使用後)において算出する
  • 使用段階はメーカーの直接的影響下にないため計算から除外する
  • 第三者機関によるCFP値の認証が必要
  • 2026年8月18日からはCFP性能クラスの記載
  • 2028年2月18日からは設定されたCFPの最大閾値を下回る必要あり。NGの場合EU域内での販売ができない

【図表5】欧州電池規則の概要

出所:欧州電池規則を基にゼロボード作成

 欧州で電動車を販売する自動車OEM各社は、上記の対応を広大な蓄電池サプライチェーン(SC)から情報を収集し、2025年2月18日の期限までに対応しなければならない。日本から欧州までの車両輸送が50-60日程度要すること、CFPデータ集計は原則1年分が求められることを考えると、すぐにスタートしなければ間に合わない時間軸である。最大の難所はSC情報の収集であろう。セル、モジュール供給者は、本規則の要件を満たすために必要な情報及び文章を提供する義務を負うとされているが、蓄電池SCを構成する各企業は現在のところ、欧州電池規則のタイムラインにアラインする形で自社工程におけるCFPを算出しているわけではきっとない。この状況下での対応をどう実現していくか、次号ではSCデータ収集基盤として目下日本政府、自動車業界中心に構築が進められている「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」もからめ、さらに掘り下げていきたい。

> 欧州電池規則がもたらすインパクト②

> 欧州電池規則がもたらすインパクト③

<出所先>

*1 欧州電池規則原文URL(参照:2023/9月)
*2 欧州自動車工業会ACEAURL(参照:2023/9月)
*3-1 日本自動車販売協会連合会(自販連)URL(参照:2023/9月)
*3-2 全国軽自動車協会連合会(全軽自協)URL(参照:2023/9月)
*4 JETRO地域・分析レポートURL(参照:2023/9月)
*5 OROVEL Li-on Battery Gigafactories in Europe (January 2021)

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