2024.09.06
コラム
廃棄物の適正処理からサーキュラーエコノミーへ
ゼロボード総研 コンサルタント 深井 晶央
私が子供の頃、不法投棄されている自動車や家電などをよく目にしていました。2020年代になり、私たちは『サーキュラーエコノミー』という言葉を耳にします。半世紀の間に、廃棄物処理の概念はどのように変化してきたのでしょうか。
第二次世界大戦後、産業の発展とともに、大量の廃棄物が各地で発生するようになり、それらの適正処理が大きな社会問題となりました。1970年代より廃棄物の不法投棄問題が散見されるようになり、大規模な不法投棄事件が発生、過去に私が現地に訪問した際に伺った、豊島事件の例では地域住民が国を相手に裁判を起こし、地域環境の回復に500億円以上の税金を使い20年以上の期間に渡り回復作業が実施されるなど、国としても大きな損害を与えるようになりました。これらを契機に、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)が整備され、事業者による適正処理が義務付けられました。これにより厳格な管理のもと不法投棄は大幅に減少しました。しかし、この段階では、廃棄物を適切に収集・処分することが中心課題で、収集した廃棄物を焼却や埋立処分に依存せざるを得ず、「大量生産・大量消費・大量廃棄」の一方通行の線形経済でした。
出典:公害資料館ネットワーク 豊島(てしま)こころの資料館 廃棄物(*1)
上写真)豊島事件現地写真 1990年12月
下写真)廃棄物撤去後、地下水浄化中の現場写真 2021年4月
資源循環型社会の形成は、1990年代に顕在化した深刻な環境問題への対応策として注目されるようになりました。特に、天然資源の枯渇への懸念と廃棄物最終処分場の不足が大きな課題となっていました。これらの問題に対処するため、2000年に「循環型社会形成推進基本法」が制定されました。(*2)この法律の核心となるのが、Reduce(リデュース:廃棄物の発生抑制)、Reuse(リユース:再使用)、Recycle(リサイクル:再生利用)という3Rの原則です。
この法律の制定により、製品のライフサイクル全体を通じての資源循環が重要視されるようになりました。製品の設計段階から、長期使用を可能にする耐久性の向上、修理のしやすさ、再使用可能な部品の使用、リサイクルしやすい材料の選択などが考慮されるようになりました。これに伴い、リサイクル製品の需要が増加し、リサイクル技術も進歩。リサイクル関連産業が成長するなど、リサイクル市場の拡大が見られるようになりました。
企業の取り組みも進化を遂げています。多くの企業がLCA(ライフサイクルアセスメント)を実施するようになり、製品の原材料調達から廃棄までの環境負荷を評価し、環境負荷の少ない製品開発に活用しています。また、製品のライフサイクル全体でのGHG(温室効果ガス)削減にも注力しており、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギーの利用拡大などに取り組んでいます。
このような中、欧州を中心に「サーキュラーエコノミー」の考え方が徐々に、広まってきました。サーキュラーエコノミー(和訳:循環経済)とは、シェアリング、リユース、リビルト、リファービッシュなどのビジネスモデルを通じて資源循環を作り出し、廃棄物をできる限り発生させない持続可能な経済システムを目指すものです。サーキュラーエコノミーによる資源効率の向上はカーボンニュートラルへの貢献も期待されます。
サーキュラーエコノミーを実現するには、製品の設計から製造、ビジネスモデルに至るまで、経済社会システム全体の変革が必要とされています。単なる適正処理から資源循環を超え、根本から廃棄物を発生させないことが究極の目標となっています。(*3)
サーキュラーエコノミーの国際標準化が進む中、日本では日本工業標準調査会(JISC)を中心に国内委員会を2018年より設置。(*3) 高度な資源循環技術といった強みを活かしてISO/TC 323での議論に積極的に貢献しながら、先進的企業の取り組みを参考に国際規格と国内規格の調和を図っています。また、2025年頃の主要規格発行を見据えて、中小企業支援や人材育成、評価制度の整備に取り組むことで、環境負荷低減と経済成長の両立を目指すグローバルモデルの構築に挑戦しています。
このように、廃棄物への取り組みは、時代の要請とともに進化を遂げ、より高次の循環型システムの構築へとつながってきました。サーキュラーエコノミーは、持続可能な未来を築くための重要なアプローチです。環境保護、資源の有効利用、経済的利益、社会的利益など、多くの利点を持ち合わせており、この新しい経済モデルに積極的に参加することが求められます。
<参照元>
*1)公害資料館ネットワーク 豊島(てしま)こころの資料館:
https://kougai.info/archives/887
*2)環境省 日本の廃棄処理の歴史と現状:
https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/ja/history.pdf
*3)ISO/TC 323日本国内委員会事務局 ISO/TC 323サーキュラーエコノミー活動紹介:
https://www.jemai.or.jp/standard/d3ldbs0000000bvi-att/ISOTC323report202404.pdf
その他のコラム
欧州電池規則のCFP細則の解釈について③~CFP細則に基づくサーキュレーションフットプリントフォーミュラ(CFF)とモデリング:効果的な算定方法と実務のヒント~
欧州電池規則のCFP細則の解釈について②~欧州電池規則に対応するためのCFP細則の完全ガイド:カットオフルールとDQR値設定~
SSBJ基準とIFRS基準の違いを徹底比較:企業に求められる新しい開示義務